〈着眼〉 まずは,「3 で割ると 2 余る自然数」を具体的にいくつか並べ,問題の意味を把握しましょう. \begin{align*} ★:2,\underline{5},8,11,14,17,\underline{20},23,26,29,32,\underline{35},38,41\cdots \end{align*} これらの数のうち,$n$ 以下であるもの全ての積が「$P(n)$」です($P$ はProduct =積の頭文字).
次に,「$\dfrac{P(n)}{5^m}$ が整数」とは \begin{align*} P(n)=5^m\cdot (整数) \end{align*} の形に表せる,つまり「$P(n)$ の素因数分解における 5 の次数が $m$ 以上」ということであり,これを満たす最大の$m$ である「$D(n)$」とは,「$P(n)$ の素因数分解における 5 の次数」ですね($D$ はDegree =次数の頭文字).そこで,前記★において,素因数 5 を含む数に下線を付しておきました.
これを見れば,問題文で例示されている $D(3)=0$,$D(5)=1$,$D(10)=1$ 以外に,たとえば \begin{align*} D(20)=2,D(40)=3 \end{align*} などもわかりますね.
$\mathbf{【解答】}$
(1) 3 で割って 2 余る自然数は,
\begin{align*}
(\ast):3a+2\ (a=0,1,2,\cdots).
\end{align*}
これが 5 の倍数であるとき,$b$ をある整数として
\begin{align*}
3a+2=&5b.\ \cdots①\\
3\cdot 1+1=&5\cdot 1
\end{align*}
とで辺々差をとると
\begin{align*}
3(a-1)=5(b-1).
\end{align*}
3 と 5 は互いに素だから,$c$ をある整数として
\begin{eqnarray}
\left\{
\begin{array}{l}
a-1=5c,\\
b-1=3c
\end{array}
\right.
\mathit{ie}
\left\{
\begin{array}{l}
a=1+5c,\\
b=1+3c.
\end{array}
\right.
\end{eqnarray}
よって,3 で割ると2余る自然数のうち 5 の倍数であるものは
\begin{align*}
5b=5(1+3c).
\end{align*}
これが自然数となるのは $c=0,1,2,\cdots$ のときだから,求めるものは
\begin{align*}
5(1+3l)=\boxed{5}^{\small ア}+\boxed{15}^{\small イウ}l\ (l=0,1,2,\cdots).\ \cdots②
\end{align*}
(2) ②の自然数のうち100以下であるものは
\begin{align*}
&5,\\
&20=5\cdot4,\\
&35=5\cdot7,\\
&50=5^2\cdot2,\\
&65=5\cdot13,\\
&80=5\cdot16,\\
&95=5\cdot19.
\end{align*}
$D(n)$ は,$P(n)$ の素因数分解における 5 の次数だから
\begin{align*}
D(100)=1+1+1+2+1+1+1=\boxed8^{エ}.
\end{align*}
(3) ②の自然数が $5^2$ の倍数であるための条件は,$d$ をある整数として
\begin{align*}
1+3l=&5d.\ \cdots③\\
1+3\cdot 3=&5\cdot 2
\end{align*}
とで辺々差をとると
\begin{align*}
3(l-3)=5(d-2).
\end{align*}
3 と 5 は互いに素だから,$e$ をある整数として
\begin{eqnarray}
\left\{
\begin{array}{l}
l-3=5e,\\
d-2=3e
\end{array}
\right.
\mathit{ie}
\left\{
\begin{array}{l}
l=3+5e,\\
d=2+3e.
\end{array}
\right.
\end{eqnarray}
このとき②の自然数は,③より
\begin{align*}
5\cdot 5d=&5^2(2+3e)\\
=&50+75e\ (e=0,1,2,\cdots).\ \cdots④
\end{align*}
これが,$(\ast)$ のうち $5^2$ の倍数であるものである.
④において $e=15$ に対応する自然数は
\begin{align*}
50+75\cdot15=1175.
\end{align*}
この自然数は,②においては,
\begin{align*}
l=3+5\cdot 15=78
\end{align*}
に対応している.よって,$(\ast)$ のうち 1175 以下であるものの中には
\begin{eqnarray}
\left\{
\begin{array}{l}
5の倍数が79個あり,\\
そのうち 5^2 の倍数が16個ある.
\end{array}
\right.
\ \cdots⑤
\end{eqnarray}
④の自然数が $5^3$ の倍数であるための条件は,$f$ をある整数として
\begin{align*}
2+3e=5f.
\end{align*}
①と同様にして,$g$ をある整数として
\begin{eqnarray}
\left\{
\begin{array}{l}
e=1+5g,\\
f=1+3g.
\end{array}
\right.
\end{eqnarray}
このとき④の自然数は
\begin{align*}
5^2\cdot 5f=&5^3(1+3g)\\
=&125+375g\ (g=0,1,2,\cdots).\ \cdots⑥
\end{align*}
これが,$(\ast)$ のうち $5^3$ の倍数であるものである.
このうち 1175 以下であるものは
\begin{align*}
g=0,1,2\ に対応する3個.
\end{align*}
よって,$(\ast)$ のうち 1175 以下であるものの中には
\begin{align*}
5^3の倍数が3個ある.\ \cdots⑦
\end{align*}
⑥の自然数が $5^4$ の倍数であるための条件は,$h$ をある整数として
\begin{align*}
1+3g=5h.
\end{align*}
③と同様にして,$i$ をある整数として
\begin{eqnarray}
\left\{
\begin{array}{l}
g=3+5i,\\
h=2+3i.
\end{array}
\right.
\end{eqnarray}
このとき⑥の自然数は
\begin{align*}
5^3\cdot 5h=&5^4(2+3i)\\
=&1250+1875i\ (i=0,1,2,\cdots).
\end{align*}
これが,$(\ast)$ のうち $5^4$ の倍数であるものである.
この中には 1175 以下であるものはない.よって⑤,⑦より
\begin{align*}
D(1175)=79+16+3=98.
\end{align*}
$(\ast)$の自然数で 1175 の次の2つは
\begin{align*}
1190=&5\cdot 238,\\
1205=&5\cdot 241.
\end{align*}
よって
\begin{align*}
D(1190)=&D(1191)=\cdots=D(1204)=99,\\
D(1205)=&100.
\end{align*}
以上より,求める $n$ は,$\boxed{1205}^{オカキク}$.
【解説】
「$D(n)$」の定義について,〈着眼〉の説明を補足しておきます.たとえば $n=20$ のときを考えると
\begin{align*}
P(20)=&2\cdot5\cdot8\cdot11\cdot14\cdot17\cdot20\\
=&5^2\times\underline{2\cdot8\cdot11\cdot14\cdot17\cdot4}
\end{align*}
と書けます.この等式において
\begin{align*}
下線部は整数だから,&P(n)=5^2\cdot (整数) と書けるが,\\
下線部に素因数5はないから,&P(n)=5^3\cdot (整数) とは書けない.
\end{align*}
よって,$P(n)=5^m\cdot (整数)$ の形に表せるような最大の $m$ は「2」ですから,
\begin{align*}
D(20)=2
\end{align*}
です.
要するに
\begin{align*}
P(n)=&5^m\cdot(素因数5を含まない整数)\ \cdots⑧
\end{align*}
を満たす 0 以上の整数 $m$,つまり「$P(n)$ の素因数分解における 5 の次数」が「$D(n)$」の定義です.
という訳で,本問の「鍵」となる基本用語:「素数」「素因数分解」について確認しておきましょう.
素数
ちょうど2つの正の約数をもつ正整数,すなわち,1と自分自身以外に正の約数をもたない
正整数(ただし1を除く)を素数という.また,素数である約数のことを素因数という.
素因数に注目することで,全ての自然数(正の整数)は,次の3種類に分類される.
\begin{eqnarray}
\left\{
\begin{array}{l}
1\hskip10mm(素因数をもたない)\\
素数\\
合成数(2個以上の素数の積で表される)
\end{array}
\right.
\end{eqnarray}
〈定理:「素因数分解の一意性」〉
1を除く任意の正整数 $n$ は,異なる素数 $p$,$q$,$r$,$\cdots$ と正整数 $\alpha,\beta,\gamma, \cdots $ を用いて
$$\eqalign{
n=p^\alpha q^\beta r^\gamma\cdots
}$$
の形に(現れる素数の順序を除いて)ただ1通りに表される.この式の右辺を $n$ の素因数分解という.
本問において,前記【解説】 ⑧式のような $m$ が1つに定まるのも,この「素因数分解の一意性」によります.
「$D(n)$」の定義に際して,問題文では,「$\dfrac{P(n)}{5^m}$ が整数」のように「分数」を使っていますが,「整数」の世界には,元来「分数」などという表現法はありませんから,前記〈着眼〉や【解説】
のように,分母を払い,分数を用いてないで議論するのが正統派です.
①式の直前:「$b$ はある整数として」の「ある」に込められた気持ちを説明します.
①の所でやりたいのは,$(\ast):3a+2\ (a=0,1,2,\cdots)$,つまり 2,5,8,11,・・・ の1つ1つが 5 の倍数,つまり「$5\times\underline{(整数)}$」の形に表せる数でもあるための条件を表すことです.そこで,「$\underline{(整数)}$」の部分を文字 $b$ で表すのですが,この「$b$」は,「特定な整数」を指す訳ではありません.「$b$」は「不特定な整数」,「任意の整数」つまり「整数であればなんでもよいもの」という意味を持つべき文字です.なので,「何でもよい何かある整数」というニュアンスを込めるために「ある」という一言を入れてあります.
①の所をより丁寧に書くときには
『
$
3a+2=5b\ (bは整数)\ \cdots①
$
と表せる.』
とします.さらに厳格に書くと
『
$
3a+2=5b\ \cdots①
$
を満たす整数 $b$ が存在する.』
となります.ただし,こう書くと表現として堅苦しいですし,本問では似たような議論が繰り返し登場するので,「ある」の一言でサラッと片づけました.($c$,$d$ などの文字についても同様です.)
ちなみに,(1)の結果である②の直前で使われている文字「$c$」も,不特定な整数を表しますから,「$c$」の代わりにどんな文字を用いても構いません.そこで,問題文の設定に沿って「$c$」を「$l$」に変えてあります..
「$
3a+2=5b\ \cdots①
$
」
のように,整数を表す未知数2つを含んだ方程式を「不定方程式」と呼ぶ習慣があります.①のような1次の不定方程式については,その解法手順がしっかりと確立されています.目指すべきは,定数項「2」を消去することです.
- ①を満たす $(a,b)$ の組の1つ:$(1,1)$ を見つける.
- それを$a,b$ へ代入した等式を作り,①とで辺々差をとる.
- $3\times(整数)=5\times(整数)$ の形を作る.
- あとは,3 と 5 が互いに素であることに注目して・・・

さて,前記
のように①を変形して得られた
\begin{align*}
3\underbrace{(a-1)}_{整数}=5\underbrace{(b-1)}_{整数}\ \cdots①'
\end{align*}
において,「3 と 5 は互いに素」,つまり「3 と 5 は共通素因数をもたない」に注目しつつ次のように考えます.
- 右辺は 5 の倍数である.
- よって,左辺も 5 の倍数である.
- しかるに,左辺の 3 は 5 と互いに素である.
- よって,左辺において $a-1$ が 5 の倍数である.
$(\ast):3a+2\ (a=0,1,2,\cdots)$ のうち 5 の倍数でもある数は,〈着眼〉のように $(\ast)$ を具体的に書き並べてみると
\begin{align*}
5 から始まり,15 ずつ増えていく
\end{align*}
と“読み取る”ことができ,それだけで②の結果が得られます.この「合格る一題」は,web上で解答募集という事情から,結果のみを記す「穴埋め」という特殊形態をとっているため,そのような姿勢でも“正解”が得られてしまいます.しかし,通常の入試形態=「記述式」においては,前述した“読み取り”だけによる解答は「単なる類推」に過ぎない,説明不足であるとして退けられる可能性が高いです.将来を見据え,必ず「文字」を使った正確な議論ができるよう訓練しておきましょう.
(2)で,$P(100)$ がもつ素因数 5 の個数を数える際に気を付けたいのは,②で表された(100以下の) 5 の倍数の中に,$50=5^2\cdot2$ のように素因数 5 を2個もつ数が含まれていることです.単に5 の倍数の個数を求めただけでは正解は得られませんね.
ここで注目すべき基本用語は,「倍数」や「約数」ではなく,あくまでも「素因数」なのです!
$n=100$ に過ぎない(2)では,5,20,35,50,65,80,95 の1つ1つについて素因数の個数を考え,それらを単純に加えればよかったのですが,(3)となると $n$ がかなり大きくなりそうなので,そのような方法論は通用しなくなりそうです.そこで,(3)で用いる作戦で(2)を答える方法を解説します.
まず,$(\ast)$ のうち,5 の倍数,$5^2$ の倍数であるものを②,④のように求めておきます.素因数 5(「〇」で表す)は,100 以下の $(\ast)$ においては次表のように含まれています.
\begin{align*}
\begin{array}{cccccccc}
&5&20&35&50&65&80&95\\
1個目&〇&〇&〇&〇&〇&〇&〇\\
2個目&&&&〇&&&
\end{array}
\end{align*}
ここに現れた〇の個数を数えるために,【解答】 では“縦並び”の個数を加えて
\begin{align*}
1+1+1+2+1+1+1=8
\end{align*}
とした訳ですが,これを“横並び”に変えて
\begin{align*}
7+1=8
\end{align*}
とします.つまり,表における「1個目」の〇の個数と「2個目」の〇の個数を加えるのです.こうすれば,(100以下の)5 の倍数の個数,$5^2$ の倍数を求めてそれらを加えることにより $D(100)$ を求めることができますね.
なお,ここでは 100 以下の自然数には $5^3=125$ の倍数はないことを前提として話しました.
さて,いよいよ(3)です.もちろん,
で説明した“横並び”の個数を加える方法論を用いるのですが・・・.【解答】 ④式のすぐ後で「$e=15$」としたことに違和感を感じる人が多いと思いますので,まずそこを解説しましょう.
④を②と見比べると,
\begin{align*}
&5の倍数②の数は15刻みで現れ,\\
&5^2の倍数④の数はその5倍である75刻みで現れる
\end{align*}
ことがわかります.つまり,④の数が1個現れる度に,②の数はおおよそ5個ずつ現れるので,計6個の素因数 5 が得られる訳です.これを用いて,素因数 5 が 100 個に達するのは $e$ がどのくらいのときかと考えると,$\dfrac{100}{6}=16.\cdots$ よりおおよそ16個の $e$ が現れるあたり,つまり $e=\underline0,1,2,\cdots,15$ まで行ったあたりではないかと見当が付く訳です.(0 を数え忘れないように!)
なお,この時点では,$5^3,5^4,\cdots$ の倍数は,仮にあったとしてもその個数は微々たるものだと思われるので無視しています.
仮に記述式の試験だった場合,以上は全て答案には書かず,下書き用紙においてなすべきことです.このような水面下で行った推論,苦労の跡は答案に書かないのが,「数学」という業界の慣習です.(だから,皆さんが問題集の「解答」だけを読んでもいろいろわからないことだらけな訳です.)
のように考えた結果,⑤にあるように
\begin{align*}
D(1175)\geqq79+16=95
\end{align*}
であることがわかりました.「100」まであとほんの少しですから,あとは
では無視していた$5^3,5^4,\cdots$ の倍数も考慮し,1175に続くいくつかの $(\ast)$ の数を加味すれば(3)も解答できます.
【解答】 の最後で,$D(1204)=99$,$D(1205)=100$ から「求める $n$ は,1205」と結論するには,厳密にいうなら,「$n$ が増えるとき $D(n)$ が減ることはない」ということを添えるべきですが,本問では「自明なこと」としても許されると思います.

