第5弾 解答・解説

$\mathbf{<着眼>}$
本問で問われている内容は,(1)~(4)まで終始一貫して,点Pが
「Oにあるか,O以外にあるか」
です.そのことだけに神経を集中し,他のことを無視するという視点があれば,鮮やかな解決が得られます.
$\mathbf{【解答】}$

(1) $X:5→0$ と移動するのは,5 の目が出るときだから,この確率は, $ \dfrac{\boxed1^{ア}}{\boxed6^{イ}}. $
$X:-2→0$ 以外へ移動するのは,2 以外の目が出るときだから,この確率は, $ \dfrac{\boxed5^{ウ}}{\boxed6^{エ}}. $
(2) 各回における2つの状態 $O,A$ を \begin{eqnarray} \left\{ \begin{array}{l} O:X=0,\\ A:X=\pm1,\pm2,\pm3,\pm4,\pm5,6 \end{array} \right. \end{eqnarray}

と定めると,各移動の確率は \begin{eqnarray} \left\{ \begin{array}{l} O→A\ \cdots\ 1,\\ A→O\ \cdots\ \dfrac16,\\ A→A\ \cdots\ \dfrac56. \end{array} \right. \end{eqnarray} 題意の事象は,$n$ 回の移動が次のようになること. \begin{align*} ^{\raise{0.5em}{回}}_{\lower{1.0em}{確率}}O\xrightarrow[1]{1}A\xrightarrow[\frac56]{2}A\xrightarrow[\frac56]{3}A\xrightarrow[\frac56]{}\cdots \xrightarrow[\frac56]{n-1}A\xrightarrow[\frac16]{n}O \end{align*} よって,求める確率は \begin{align*} 1\cdot\left(\dfrac56\right)^{n-2}\cdot\dfrac16=\dfrac{\ \boxed1^{オ}}6\cdot\left(\dfrac{\boxed5^{カ}}{\boxed6^{キ}}\right)^{n-\boxed{\scriptsize 2}^{ク}}. \end{align*} (3) 題意の事象は,次の通り. \begin{align*} ^{\raise{0.5em}{回}}_{\lower{1.0em}{確率}}O\xrightarrow[1]{1}A\underbrace{\boxed{→\cdots →}}_{n-2回の移動}A\xrightarrow[\frac16]{n}O \end{align*} ただし,上記「 $n-2$ 回の移動」の内訳は,次のようになる. \begin{eqnarray} \left\{ \begin{array}{l} A→O→A\ \cdots\ 1セット\\ \hskip2.3em A→A\ \cdots\ n-4 回\\ \end{array} \right. 計\ n-3\ 個\ \cdots① \end{eqnarray} 「$A→O→A$」と「$A→A$」の並べ方は $n-3$ 通り.
よって求める確率は \begin{align*} &(n-3)\times1\cdot\dfrac16\cdot1\cdot\left(\dfrac56\right)^{n-4}\cdot\dfrac16\ \cdots②\\ =&\dfrac{n-\boxed3^{ケ}}{\boxed{36}_{コサ}}\cdot\left(\dfrac{\boxed5^{シ}}{\boxed6^{ス}}\right)^{n-\boxed{\scriptsize 4}^{\small セ}}. \end{align*} (4) 2つの事象 $E,F$ を次のように定める. \begin{align*} E:&「n 回後に\mathrm Pが\mathrm Oにあり,途中で2回だけ\mathrm Pが\mathrm Oに戻る」\\ F:&「3回後に\mathrm Pが原点\mathrm Oにある」 \end{align*} 求める条件付き確率は \begin{align*} P_E(F)=\dfrac{P(E\cap F)}{P(E)}.\ \cdots③ \end{align*} $E$ は,次のような事象である. \begin{align*} ^{\raise{0.5em}{回}}_{\lower{1.0em}{確率}}O\xrightarrow[1]{1}A\underbrace{\boxed{→\cdots →}}_{n-2回の移動}A\xrightarrow[\frac16]{n}O\ \cdots④ \end{align*} ただし,上記「 $n-2$ 回の移動」の内訳は,次のようになる. \begin{eqnarray} \left\{ \begin{array}{l} A→O→A\ \cdots\ 2セット\\ \hskip2.3em A→A\ \cdots\ n-6 回\\ \end{array} \right. 計\ n-4\ 個\ \cdots⑤ \end{eqnarray} 「$A→O→A$」と「$A→A$」の並べ方は \begin{align*} {}_{n-4} \mathrm{ C }_2 通り.\ \cdots⑥ \end{align*} $E\cap F$ は,次のような事象である. \begin{align*} ^{\raise{0.5em}{回}}_{\lower{1.0em}{確率}}O\xrightarrow[1]{1}A\xrightarrow[\frac56]{2}A\xrightarrow[\frac16]{3}O\xrightarrow[1]{4}A\underbrace{\boxed{→\cdots →}}_{n-5回の移動}A\xrightarrow[\frac16]{n}O \end{align*} 上記「 $n-5$ 回の移動」の内訳は,次のようになる. \begin{eqnarray} \left\{ \begin{array}{l} A→O→A\ \cdots\ 1セット\\ \hskip2.3em A→A\ \cdots\ n-7 回\\ \end{array} \right. 計\ n-6\ 個 \end{eqnarray} 「$A→O→A$」と「$A→A$」の並べ方は \begin{align*} n-6 通り.\ \cdots⑦ \end{align*} ⑥の ${}_{n-4} \mathrm{ C }_2$ 通りの各々,および⑦の $n-6$ 通りの各々の確率は全て等しく,これを $p$ とおくと,求める条件付き確率は,③より \begin{align*} P_E(F)=&\dfrac{(n-6)\cdot p}{{}_{n-4} \mathrm{ C }_2\cdot p}\ \cdots⑧\\ =&\dfrac{2(n-\boxed6^{ソ})}{(n-\boxed4^{タ})(n-\boxed5^{チ})}. \end{align*}
$\mathbf{【解説】}$

(1)と同じように考えると,$X=\pm1,\pm2,\pm3,\pm4,\pm5,6$ のとき,$X=0$ へと移動するのはサイコロの目が次のようになるときです. \begin{eqnarray} \left\{ \begin{array}{l} X=\pm 1\ →\ 1の目\\ X=\pm 2\ →\ 2の目\\ X=\pm 3\ →\ 3の目\\ X=\pm 4\ →\ 4の目\\ X=\pm 5\ →\ 5の目\\ X=\phantom{\pm}6\ →\ 6の目 \end{array} \right. \end{eqnarray} このように,$X=-5,-4,-3,-2,-1,1,2,3,4,5,6$ という11個の状態は,点Pの位置としては異なるものの,原点Oへと移動する確率に関しては全て等しく $\dfrac16$ ですね.そこで,これら11個を「1つの状態$A$」 としてまとめ, \begin{eqnarray} \left\{ \begin{array}{l} O:X=0,\\ A:X=\pm1,\pm2,\pm3,\pm4,\pm5,6 \end{array} \right. \end{eqnarray} という2つだけに分類してみます.すると,この2つの状態間の推移は,(2)の図 $(\ast)$ に示した確率で起こります.じつにシンプルですね.(こんな風に複数の状態を1つにまとめて考えることを,筆者個人は普段,「束ねる」と呼んでいます.)
なお,「$X=-6$」を状態 $A$ に 含めても(2) $(\ast)$ の推移確率は変わりませんが,実際には,本問のルールに従うと「$X=-6$」となることはないことがわかります.

確率を求める際には,「$O$」や「$A$」という「各回における状態」ではなく,「$A→A$,$A→O$」などの「移動の仕方」について考えることが重要です.そして,このような移動・推移を,$\mathbf{【解答】}$ にあるように視覚的に表現し,(状態「$A,O$」ではなく)推移を表す「→」の個数を考えましょう.
なお,(2)~(4)においては,状態 $O$ の後は必ず状態 $A$ となることに注意してください.

(2)では推移の仕方が1つしかないので,単純に各推移の確率を掛け合わせれば答えが得られるのに対し,(3)では推移の順序が何通りあるかを①のように考え,その「順序の個数」を「各々の推移の確率」に掛けて②のように求めます.((4)も同様です. )

(4)で問われた「・・・であるとき~~である条件付き確率」を求める際には,次の手順を踏みます.
 1° 2つの事象「・・・である」,「~~である」に名前を付ける.($\mathbf{【解答】}$の $E,F$ )
 2° 条件付き確率の定義式③を予め書いておく.
 3° ③式の分母,分子をそれぞれ求める.
定義式③が示す通り,条件付き確率 $P_E(F)$ とは,事象 $E$ の起きたという前提のもとで,事象 $F$ 起きる確率,つまり,「$E$ を新たに全体とみて,それに対する $E\cap F$ の起こりやすさの割合」です.
本問(4)では,前提の $E$ が 「$n$ 回まで」のことを指し,$F$ が「3回後」のことを述べています.時間的に「後」のことを前提として「前」のことの確率を問う形になっているので「考えにくいな~」と感じるかもしれません.しかし,条件付き確率の定義式③の中には「時の流れ」だの「因果関係」だのは一切現れていませんね.ただ単に,③の分母と分子の確率をそれぞれ求めさえすればよいのです.
なお,分子の $P(E\cap F)$ では,3回以前に $O$ に戻ることはないことに注意しましょう.

⑧において, 分母の $P(E)$,および分子の $P(E\cap F)$ は,いずれもで述べたように \begin{align*} 「順序の個数」×「各々の推移の確率」 \end{align*} によって求まります. そして,事象 $E\cap F$ は事象 $E$ の一部分ですから,「各々の推移の確率」(解答の $p$)は,両者共通です.したがって,⑧のように比をとると $p$ は約分されて消えてしまうので,$p$ の値を求める必要はなく,⑥,⑦のように「順序の個数」のみ求めればよい訳です.
参考までに $p$を求めると,④と⑤より \begin{align*} p=1\cdot \left(\dfrac16\cdot 1\right)^2\left(\dfrac56\right)^{n-6}\cdot \dfrac16 \end{align*} となります.

入試において「条件付き確率」が出題される際には,「・・・であるとき~~である条件付き確率」と明示せず,単に「・・・であるとき~~である確率」としか書かれないこともよくありますから注意してください.

本問は,(1)~(4)の設問に分かれていますが,前の設問を利用するにあたって,「結果」をそのまま用いるのではなく,「考え方」を利用して徐々にステップアップしています.入試でも,このような設問形式になっていることもあります.

本項目は,数列(数学B)に習熟した人向けの内容です.
本問とはちがい,途中経過を考慮せず「$n$ 回後にPが原点Oにある」確率 $p_n$ を求めてみましょう.「途中経過を考慮しない」ということは,「途中経過が多岐に渡り複雑」なので,$p_n$ を本問のように直接求めるのは困難です.そこで,(数学的な意味での)帰納的アプローチ,つまり漸化式を利用する方法を採用します.

$n+1$ 回後(直後)に状態 $O$ となる推移は,$n$ 回後(直前)の状態に注目して,右図のようになります.よって \begin{align*} p_{n+1}=\dfrac16\left(1-p_n\right).\ \cdots⑨ \end{align*} また,初め(つまり,0回後 )は状態 $O$ であるから \begin{align*} p_0=1.\ \cdots⑩ \end{align*} ⑨を変形すると \begin{align*} &p_{n+1}-\dfrac17=-\dfrac16\left(p_n-\dfrac17\right).\\ \therefore&p_{n}-\dfrac17=\left(p_0-\dfrac17\right)\left(-\dfrac16\right)^n.\\ \end{align*} これと⑩より \begin{align*} p_{n}=\dfrac17+\dfrac67\left(-\dfrac16\right)^n. \end{align*}
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