第3弾 解答・解説
- 等式「$a_n=\displaystyle\frac{n^2}{n+1}$ 」は,あなたにとって“何個の式”ですか?・・・もちろん,筆者にとっては“無限個の式”です.
-
$\circ$ 漸化式の中に「$a_{n+1}$」が含まれている.
$\circ$ (1)で,「数列 $\bigl\{a_n\bigr\}$ の積 $A_n$」を用いるよう誘導されている.
どうすればこの「2つ」が結びつくのか・・・.そこを考えるのが本問の勝負所です.
$\mathbf{【解答】}$
(1) $$\eqalign{ A_n=&a_1a_2a_3\cdots a_{n-1}a_n\\ =&\frac{1^2}{2}\cdot\frac{2^2}{3}\cdot\frac{3^2}{4}\cdot\,\cdots\,\cdot \frac{(n-1)^2}{n}\cdot\frac{n^2}{n+1}\ \cdots①\\ =&1\cdot2\cdot3\cdot\,\cdots\,\cdot(n-1)\cdot \frac{n}{n+1}=\frac{n!}{n+\boxed1_{ア}}.\ \cdots② }$$
(2) $c_n=\displaystyle\frac{n!}{(n+2)(n+3)}$ とおき,与えられた漸化式の両辺を $A_{n+1}(=A_na_{n+1})$ で割ると $$\eqalign{ \frac{b_n}{A_{n+1}}=\frac{a_{n+1}b_{n-1}}{a_{n+1}A_{n}}+\frac{c_n}{A_{n+1}}.\ \cdots③ }$$ よって $$\eqalign{ \frac{b_n}{A_{n+1}}-\frac{b_{n-1}}{A_{n}} =&\frac{c_n}{A_{n+1}}\ \cdots④\\ =&\frac{n!}{(n+2)(n+3)}\cdot\frac{n+2}{(n+1)!}\ \cdots⑤\\ =&\frac1{(n+1)(n+3)}.\ \cdots⑥ }$$ すなわち $$\eqalign{ \frac{b_k}{A_{k+1}}-\frac{b_{k-1}}{A_{k}}=&\frac1{(k+1)(k+3)}\ (k=2,3,4,\cdots). }$$ $n\geqq2$ のとき,$k=2,3,4,\cdots,n$ として辺々加えると $$\eqalign{ \frac{b_n}{A_{n+1}}-\frac{b_{1}}{A_{2}}=&\sum_{k=2}^n\frac1{(k+1)(k+3)}\ \cdots⑦\\ =&\sum_{k=2}^n\frac12\biggl(\frac1{k+1}-\frac1{k+3}\biggr) \cdots⑧\\ =&\frac12\biggl(\frac13+\frac14-\frac1{n+2}-\frac1{n+3}\biggr).\ \cdots⑨\\ &(これはn=1でも成立.) }$$ また,$\displaystyle\frac{b_{1}}{A_{2}}=\frac5{36}\cdot\frac32=\frac5{24}$ だから$$\eqalign{ \frac{b_n}{A_{n+1}}=&\frac5{24}+\frac7{24}-\frac12\cdot\frac{2n+5}{(n+2)(n+3)}\\ =&\frac12\biggl\{1-\frac{2n+5}{(n+2)(n+3)}\biggr\}\\ =&\frac{n^2+3n+1}{2(n+2)(n+3)}. }$$ 以上より,求める一般項は $$\eqalign{ b_n=&\frac{n^2+3n+1}{2(n+2)(n+3)}A_{n+1}\\ =&\frac{n^2+3n+1}{2(n+2)(n+3)}\cdot\frac{(n+1)!}{n+2}\\ =&\frac{ \biggl(n^2+\boxed{3}^{イ}n+\boxed{1}^{ウ}\biggr) \biggl(n+\boxed{1}^{エ}\biggr) {\Large !}}{^{オ}\boxed{2} \biggl(n+\boxed{2}^{カ}\biggr)^2 \biggl(n+\boxed{3}^{キ}\biggr) }. } $$
$\mathbf{【解説】}$
「$a_{\boxed n}=\displaystyle\frac{\boxed n^2}{\boxed n+1}\ \cdots ⑩$ 」も,「$A_{\boxed n}=a_1a_2a_3\cdots a_{\boxed n}\ \cdots ⑪$」も,どちらも $\boxed{\phantom n}$ という “器”を含んだ等式であり,$\boxed{\phantom n}$ の“中身”としてどんな自然数でも代入して使えます.これを理解しておくことが,本問に取り組むための前提条件です.
まず(1)の①式では,⑩の $\boxed n$ に $1,2,3,\cdots,n$ を代入して得られる $n$ 個の等式:
$$\eqalign{
a_1=\frac{1^2}{2},a_2=\frac{2^2}{3},a_3=\frac{3^2}{4},\cdots,a_n=\frac{n^2}{n+1}
}$$
の全てを用いています.このように,各番号 $n$ の値に対応付けて $\bigl\{a_n\bigr\}$ の各項の値を求めて①のように表せば,ごく自然に $2,3,4,\cdots,n$ が約分されて消えることに気付けますね.
それでは本問最大の要所に関して.
(2)では,$\mathbf{<方針>}$ に書いた「2つ」をつなぐために,
$$\eqalign{
&a_{n+1} に a_1a_2a_3\cdots a_n(=A_n) を掛けて\\
&\underbrace{a_1a_2a_3\cdots a_n}_{A_n}\cdot a_{n+1}\ \cdots⑫
}$$
を作りたいですね.そこで,漸化式の両辺を $A_n$ 倍すると
$$\eqalign{
&A_nb_n=A_na_{n+1}b_{n-1}+A_nc_n.
}$$
ここで,⑫は⑪の右辺において“器”:$\boxed{\phantom n}$ の“中身”を $n+1$ にしたもの,つまり $a_1$ から $a_{n+1}$ までの積:$A_{n+1}$ ですね.よって
$$\eqalign{
&A_nb_n=A_{n+1}b_{n-1}+A_nc_n.
}$$
この式を注意深く見ると,次のようになっています.
$$\eqalign{
&b_n(後の項)に A_n(前の項)が掛かり,\\
&b_{n-1}(前の項)に A_{n+1}(後の項)が掛かっている.
}$$
う~~ん.なんかチグハグですね.これを解消するために,両辺を $A_nA_{n+1}$ で割ります.すると
$$\eqalign{
\frac{b_n}{A_{n+1}}=&\frac{b_{n-1}}{A_{n}}+\frac{c_n}{A_{n+1}}
}$$
となり,$\displaystyle\frac{b_{n-1}}{A_{n}}$ を移項して得られたのが $\mathbf{【解答】}$ の④式です.
自然な思考の流れを再現すると上記の通りですが,ご覧の通り,いったん $A_n$ を掛けておいて今度は $A_nA_{n+1}$ で割っているので“二度手間”ですね.そこで $\mathbf{【解答】}$ では無駄を省いて漸化式を直接 $A_{n+1}$ で割っています.
数学の「解答」では,こんな風に思考の流れを隠して最短ルートの操作のみが記されることがしばしばです.そんなときはいったんキョトンとするでしょうが,“隠された”考え方・流れの必然性を,できる範囲で自分で考えるようにしましょう.ただし,漸化式が④という理想的な形に変形できることが見通せる人は,もちろん最初からの両辺を $A_{n+1}$ で割ってもよいですよ.
さて,これで前記の“チグハグ感”は解消され,目標である $\bigl\{b_n\bigr\}$ の一般項に大きく近づきました.で詳しく述べます.
さて,そして得られた④式の右辺を具体的に表して計算します.⑤から⑥へのプロセスは理解できますか?詳しく書くと次のとおりです.
$$\eqalign{
&\frac{n!}{(n+2)(n+3)}\cdot\frac{n+2}{(n+1)!}\ \cdots⑤\\
=&\frac1{n+3}\cdot\frac{n!}{(n+1)!}\ \cdots⑤'\\
=&\frac1{n+3}\cdot\frac{n!}{(n+1)n!}\\
=&\frac1{(n+1)(n+3)}.\ \cdots⑥
}$$
ここでも鍵を握っているのは,「階乗」の“実体”に対する認識です.$⑤'$ の分子,分母にある2つの階乗が
$$\eqalign{
n!=&1\cdot2\cdot3\cdot\,\cdots\,\cdot n\\
(n+1)!=&1\cdot2\cdot3\cdot\,\cdots\,\cdot n\cdot (n+1)
}$$
のように,$1$ から連続する自然数の積であると認識されていれば,$1\cdot2\cdot3\cdot\,\cdots\,n(=n!)$ がごっそり約分されて消え,分母の$n+1$ のみが残ることがわかります.
⑥式:
$$\eqalign{
\frac{b_n}{A_{n+1}}-\frac{b_{n-1}}{A_{n}}
=&\frac1{(n+1)(n+3)}.
}$$
を見て,「あ.有名かつ典型的な形の漸化式になったな」と気づけましたか?表記を単純にするため $B_{\boxed n}=\displaystyle\frac{b_{\boxed n}}{A_{\boxed n+1}}\ \cdots⑬\ ,C_n=\displaystyle\frac1{(n+1)(n+3)}$ とおきましょう.⑥の左辺第2項は,⑬の右辺の2つの $\boxed{\phantom n}$ の中身を $n-1$ にしたもの,つまり「$B_{n-1}$」ですから,⑥式は次のようにシンプルに書き表せます.
$$\eqalign{
B_{\boxed n}-B_{\boxed n-1}=C_{\boxed n}\ \cdots⑥'
}$$
この関係を言葉で言い表すと,次のようになります.
$$\eqalign{
&C_{n} は B_{n} の「階差数列」である.\ \cdots(☆)\\
&\ (→下の\mathbf{<注>}参照)
}$$
つまり $⑥'$ は,俗にいう“階差型漸化式”です.このようなとき,「数列」の基本体系をしっかり学習した方なら,次のことが瞬時に言えるはずです.
$$\eqalign{
B_{n} は C_{n} の(ほぼ)「和」である.\ \cdots(★)
}$$
「・・・???・・・」となった人は,次の操作を見て納得してください.$⑥'$の $\boxed{\phantom n}$ に $2,3,4,\cdots,n$ を代入して並べてみます.
$$\eqalign{
B_{2}-B_{1}=&C_{2},\\
B_{3}-B_{2}=&C_{3},\\
B_{4}-B_{3}=&C_{4},\\
\vdots&\\
B_{n-1}-B_{n-2}=&C_{n-1},\\
B_{n}-B_{n-1}=&C_{n}.
}$$
この $n-1$ 個の等式を,左辺どうし右辺どうしそれぞれ加えると,左辺においては $B_{2},B_{3},B_{4},\cdots,B_{n-1}$ がプラスとマイナスで消し合い,次のようになります.
$$\eqalign{
B_{n}-B_{1}=C_{2}+C_{3}+C_{4}+\cdots+C_{n}.
}$$
ほら.たしかに $(★)$ のとおりになりましたね.このように,「階差の形」において $\boxed{\phantom n}$ に連続自然数を代入して加えるときれいに和が求まることは,ぜひ記憶しておきたい基本原理です.(左辺の「$-B_{1}$」が余分だったり,右辺に「$C_{1}+$」が欠けていたりという細かいことは気にしないでくださいね.)
このように,「$(☆)$ が成り立てば必ず $(★)$ が導かれる」ことを知っている人にとっては,⑥式が得られた時点で本問は「解けたも同然」なんです.
$\mathbf{<注>}$
高校教科書における厳格な定義に従うなら,$B_{n}$ の「階差数列」とは
$$\eqalign{
B_{n+1}-B_{n}
}$$
を指します!この $\mathbf{【解説】}$ では,「数列 $\bigl\{B_{n}\bigr\}$ の隣どうしの差」という程度の意味として「階差」という言葉を用いています.ご了承ください.
このようにして,$\mathbf{【解答】}$ ⑦式にあたる等式
$$\eqalign{
B_n=B_1+\displaystyle\sum_{k=2}^nC_k\ (ただしn\geqq2)\ \cdots⑭
}$$
が得られました.これを見て,
と感じている人がいると思います.あなたが記憶している公式は,おそらく次のものでしょう. $$\eqalign{ &B_{\boxed n+1}-B_{\boxed n}=C_{\boxed n}\ (n=1,2,3,\cdots) のとき,\\ &B_n=B_1+\displaystyle\sum_{k=1}^{n-1}C_k\ (ただしn\geqq2).\ \cdots⑮ }$$ もちろんこの公式も,⑭とまったく同様に,
ことによって示されます.このような「公式・定理の証明過程」を理解している者にとっては,
「 $\displaystyle\sum_{k=1}^{n-1}$ 」だろうが「 $\displaystyle\sum_{k=2}^{n}$ 」だろうが,
その場の状況次第で柔軟に対応すれば済む話なのです.$⑥'$の番号をワザワザ1つずつずらして $$\eqalign{ B_{n+1}-B_{n}=C_{n+1} }$$ と書き換え,“暗記”している公式⑮に“ベッタリ頼って”答えを出そうとする行為を「くだらないな~」と感じられるようになりたいものです.
というわけで,あとは⑭つまり⑦のΣ計算です.これは有名で,「部分分数展開」という手法で解決します.
⑦の $\displaystyle\frac1{(k+1)(k+3)}$ を⑧の $\displaystyle\frac12\biggl(\displaystyle\frac1{k+1}-\displaystyle\frac1{k+3}\biggr)$ へ変形するには,次の3つの手順を踏みます.
- $\displaystyle\frac1{(k+1)(k+3)}$ を見て,「たしか $\displaystyle\frac1{k+1}-\displaystyle\frac1{k+3}$ のような形に変形できたっけかな?」と見当をつける.
- これを通分してみると $\displaystyle\frac{(k+3)-(k+1)}{(k+1)(k+3)}=\displaystyle\frac{2}{(k+1)(k+3)}$.分子の $2$ が余分だ.
- なので $\displaystyle\frac1{k+1}-\displaystyle\frac1{k+3}$ を $2$ で割ろう.
その後の⑧から⑨へ至るプロセス・・・じつはこれ,


なお,⑨は「プラスの項,マイナスの項が2個ずつ残る」という考えに基づいて作られた式なので,厳密には2個以上の $k$ の値についての和が現れるとき,つまり $n\geqq3$ を前提として書かれています.ただ,$n=2$ のとき⑨は $$\eqalign{ \frac12\biggl(\frac13+\frac14-\frac14-\frac15\biggr)=\frac12\biggl(\frac13-\frac15\biggr) }$$ となり,これは⑧で $n=2$ としたときの $$\eqalign{ \displaystyle\sum_{k=2}^2\frac12\biggl(\frac1{k+1}-\frac1{k+3}\biggr)=\frac12\biggl(\frac13-\frac15\biggr) }$$ と一致していますね.また,$n=1$ のとき⑨は $\displaystyle\frac12\biggl(\displaystyle\frac13+\displaystyle\frac14-\displaystyle\frac13-\displaystyle\frac14\biggr)=0$ となります.一方,⑨とイコールで結ばれた⑦の左辺は,$n=1$ のとき $$\eqalign{ \frac{b_1}{A_2}-\frac{b_1}{A_2}=0 }$$ ですから,⑨の結果はたしかに $n=1$ においても適用可能です.
本問で用いた「$A_{n+1}$で割る」という手法は,幅広く使える一般的なものであり,
$$\eqalign{
b_n=a_{n+1}b_{n-1}+c_n
}$$
という形の漸化式は,いつでも必ず“階差型漸化式”:
$$\eqalign{
\frac{b_n}{A_{n+1}}=\frac{b_{n-1}}{A_{n}}+\frac{c_n}{A_{n+1}}
}$$
へと変形可能です.あとは,右辺:$\frac{c_n}{A_{n+1}}$ の和が求まりさえすれば,$b_n$ の一般項を求めることができます.
以下に,もっとも使用頻度の高い2例をあげておきます.
$\mathbf{[例1]}$
$$\eqalign{
&b_n=\underbrace{2}_{a_{n+1}}b_{n-1}+c_n\\
→&両辺を a_1a_2a_3\cdots a_{n}a_{n+1}=2^{n+1} で割ると\\
&\frac{b_n}{2^{n+1}}=\frac{b_{n-1}}{2^{n}}+\frac{c_n}{2^{n+1} },\\
つまり&\frac{b_n}{2^{n+1}}-\frac{b_{n-1}}{2^{n}}=\frac{c_n}{2^{n+1}}.
}$$
$\mathbf{[例2]}$
$$\eqalign{
&b_n=\underbrace{(n+1)}_{a_{n+1}}b_{n-1}+c_n\\
→&両辺を a_1a_2a_3\cdots a_{n}a_{n+1}=(n+1)! で割ると\\
&\frac{b_n}{(n+1)!}=\frac{b_{n-1}}{n!}+\frac{c_n}{(n+1)!},\\
つまり&\frac{b_n}{(n+1)!}-\frac{b_{n-1}}{n!}=\frac{c_n}{(n+1)!}.
}$$

