「安定した職業」というイメージで人気のある公務員。実際にどのような仕事をするのか意外と知らないこともあるのではないでしょうか。この記事では、公務員の仕事内容、公務員になるにはどうすればよいのかを解説します。また、公務員になりたい場合、どのような大学・学部に進学するとよいのかも紹介しますので参考にしてみてください。
そもそも公務員はどのような仕事をするのでしょうか。一言で公務員と言っても、その職種は幅広く、さまざまな仕事があります。
公務員とは、憲法により「全体の奉仕者」と規定されており、公のための仕事に携わる人のことを指します。国や地方自治体の職員として勤務し、多くの人々のために安定した社会の土台を作る仕事をしています。
公務員といえば、国の各省庁の職員や市町村庁の職員などを思い浮かべる人も多いのではないでしょうか。そのほかにも、消防官や警察官なども公務員です。
公務員には大きく分けて、国家公務員と地方公務員があります。
国家公務員とは、国の業務に従事する公務員のこと。一方、地方公務員は、都道府県や市町村などの地方自治体に勤務する公務員を指します。
国家公務員と地方公務員の人数の割合を見てみると、令和5年(2023年)現在、地方公務員の方が多く公務員全体の約8割を占め、約2割が国家公務員となっています。
国家公務員と地方公務員のうち、まずは国家公務員について詳しく見ていきましょう。国家公務員にはどのような職種があるのでしょうか。
国家公務員は「一般職」と「特別職」に分けられます。裁判官や裁判所職員、国会議員、防衛省の職員などは「特別職」にあたり、それ以外の職員は「一般職」とされます。また「一般職」には国家公務員法が適用され、「特別職」には適用されません。(なお、ここでいう「一般職」は、「国家公務員一般職試験」の「一般職」の内容とは異なります)
一般職の国家公務員には、以下のような職種があります。
・行政府職員
行政系:各府省庁での政策の企画立案、施策の実行や調査、研究など一般的な行政事務に従事
技術系:各府省庁において、さまざまな技術を活用した政策の企画・立案・実行を行う
・行政府の専門職職員
皇宮護衛官(警察官)、刑務官、入国警備官、外交官、税務職員、労働基準監督官、航空管制官、海上保安官
・行政執行法人の職員
国立公文書館や国立印刷局の職員など
国家公務員が勤務する国家機関は、「行政府」「司法府」「立法府」の3つに分けられます。それぞれの機関において、国民生活の向上を図るための仕事を行います。
・行政府職員
行政府職員は、東京霞ヶ関にある各府省庁や、各出先機関等で勤務します。行政府職員になるために受験する公務員試験の区分によって、総合職、一般職、専門職に分かれます。
・司法府職員
国の司法機関である裁判所で働く国家公務員です。裁判所の円滑な運営のための事務処理や、裁判の手続きの補助業務なども担当します。
・立法府職
立法府である国会で仕事を行う国家公務員で、衆議院、参議院、国立国会図書館に勤務します。
日本の公務員のうち8割を占める地方公務員。地方公務員の仕事にはどのようなものがあるのか、見ていきましょう。
地方公務員とは、都道府県や市区町村などの地方自治体に勤務する公務員です。
地方公務員の職種には以下のようなものがあります。
①行政系(事務系):行政事務、学校事務、警察事務
②技術系:土木・建築・電気・機械などの分野の技術職
③心理・福祉系:児童相談所や福祉事務所等での相談業務や生活支援
④公安系:警察官、消防官
⑤医療系:医師、看護師、助産師、保健師など
⑥その他専門職:教員、図書館司書、学芸員など
地方公務員の職種は幅広く、働く場所によっても仕事内容はさまざまです。具体的に見ていきましょう。
①行政系(事務系)
・市区町村の行政事務
市区町村の役所・役場、または公立(市区町村立)の出先事務所や関連機関で勤務し、住民の日常生活に密着したさまざまな業務にあたります。
各市区町村が行う事業に関する行政施策の企画・立案、各課での窓口対応、事務処理等を担当します。具体的には、住民登録や戸籍関連の事務、市区町村税に関わる事務、医療・介護・福祉・年金の手続きなどです。
・都道府県の行政事務
都道府県では、市区町村の区域を超えるなど、市区町村単位では処理が困難な業務(道路や河川、公共施設の整備・管理など)や、都道府県全体で統一すべき業務(教育や社会福祉の水準、各種許認可など)を行います。都道府県庁または出先事務所、関連機関で勤務します。
都道府県の行政事務は、市区町村に比べ広域にわたる事務を行うほか、国と市町村、市町村間の連絡調整をする重要な役割もあります。具体的には、都道府県税に関わる事務、各種許認可業務、施策の企画・立案・事務、予算編成や経理など幅広い業務があります。
・学校事務
学校事務は公立(市区町村立または都道府県立)の小中学校、高校などの教育施設に勤務し、学校の備品整理や教職員の勤怠管理、給与計算、書類発行や作成などの事務全般、来校者対応などを行います。
・警察事務
各都道府県の警察本部や警察署で、窓口対応や電話対応、設備や備品の管理、遺失届・拾得物の取り扱い、免許更新、資料作成、警察職員の給与・勤怠管理などの事務全般を行います。警察官とは別の採用区分となっており、警察官の業務を担当することはありません。
②技術系
土木、建築、機械、電気・電子などの分野ごとに採用され、専門知識を活かした業務にあたります。地域にある道路や河川、建築物の管理や整備、また自治体が保有している機械や設備の設置、メンテナンスに携わります。
③心理・福祉系
・心理職
市区町村の心理職は自治体の各種相談センター、社会福祉施設、教育委員会、病院などに勤務し、子育てや障害などに関する相談・支援業務、心理的ケアにあたります。
都道府県職員の心理職は、児童相談所や精神保健福祉センター、児童自立支援施設などで、さまざまな問題を抱えた子どもや大人、その家族らの心理面接や心理判定、心理的ケアや支援を行います。
・福祉職
市区町村の福祉職は、自治体の福祉課、家庭課、子ども課などの関連部署をはじめ、教育委員会、病院などに勤務し、主に生活困窮者、高齢者、障害者、児童など幅広い分野での相談・支援業務を担当します。
都道府県の福祉職は、社会福祉に関する業務を専門に行う福祉事務所に勤務し、生活困窮者や障害者、母子父子家庭など社会福祉全般に関わります。具体的には、生活保護の申請受付や保護決定、受給者への定期的な訪問、身体障害者の相談・支援業務などです。
④公安系
・警察官
各都道府県の交番や警察署、警察本部で勤務します。地域のパトロールや遺失物の対応、交通違反の取り締まり、事故や事件の初動捜査、犯罪捜査など幅広い業務があります。
・消防官(消防士)
消防官(消防士)は各自治体の消防署で勤務します。火災が起きたときの消化活動や、災害時の救助活動、救急活動などを行います。
⑤医療系
公立の病院や診療所、保険センター、学校、老人介護施設などで、医師、看護師、薬剤師、保健師、助産師などとして勤務します。これらの職種では公務員試験の受験条件として、それぞれの資格が必須となっています。
⑥教員、図書館司書、学芸員
教員は、公立の小中学校、高校などの教育施設に勤務し、児童や生徒に勉強や社会のルールなどの指導を行います。
また公立図書館の図書館司書(本の貸し出しや返却業務、配架・書架整理など)や、公立の博物館や美術館の学芸員(資料の収集,保管,展示及び調査研究など)として働く人もいます。
一般的に、民間企業に就職するためには入社試験を受けますが、公務員になるには公務員試験を受験します。
公務員になるためには、公務員試験の合格が必須です。国家公務員と地方公務員、さらに職種によって受験する試験が異なり、高卒程度、大卒程度、大学院卒程度などに分かれています。希望する職種や仕事内容によって、どの試験を受けるかを選択します。
・国家公務員の採用試験
国家総合職試験、国家一般職試験、国家専門職試験の3つがあります。
※2023年度時点での内容です。今後、変更になる可能性があります。最新の情報は人事院の採用情報をご確認ください。
・総合職(国家公務員採用総合職試験)
総合職の試験には院卒者試験、大卒程度試験(教養区分以外)、大卒程度試験(教養区分)があります。院卒者試験の方がより専門的で高度な知識を必要とします。
・一般職(国家公務員採用一般職試験)
一般職の試験には、大卒程度試験、高卒者試験、社会人試験(係員級)の3つがあります。総合職と異なり、高卒者と社会人も受験することができます。
※高校卒業からの経過年数や誕生日など受験資格があります。
・専門職(専門職試験)
専門職試験(大卒程度)と専門職試験(高卒程度)があります。大卒程度試験では、国税専門官や航空管制官など、高卒程度試験では税務職員や刑務官など、職種ごとに試験が実施されます。
・地方公務員の採用試験
地方公務員を目指す場合は、各自治体が実施している地方公務員試験に合格する必要があります。一般的には、教養試験や論文試験、人物試験(面接)が行われます。
一口に公務員と言っても、職種は多岐にわたります。また、公務員になるには公務員試験に受かるための勉強も必要です。公務員を目指すなら、国と地方のどちらの仕事をしたいか、どのような仕事をしたいかなど、まずは自分の希望を明確にし、方向性を決めましょう。
公務員になるには必ずしも特定の学部でなければいけないということはありませんが、大卒程度以上の公務員試験では専門性も求められます。大学選びにあたってはめざす職種から逆算して、必要な知識を得られる大学や学部を選ぶとよいでしょう。
行政事務系を目指すなら、法学や経済学、政治学などを学べる学部・学科を選択しましょう。公務員試験では、政治学、民法や行政法、経済学などが出題されることも多く、職務にあたる上でもそれらの知識が必要になります。
技術系の公務員を志望するなら、目指す技術職に必要な専門知識が学べる土木工学科、建築学科、機械工学科などの学部・学科が選択肢になるでしょう。
また国税専門官などの専門職を目指す場合は、その専門職に必要な知識を学べる学部・学科が有利です。また心理・福祉系、看護師や保健師、薬剤師、司書などその職務に就くために資格が必要な専門職もあります。これらの公務員を目指すなら、必要な資格が取得できる学校、学部・学科を選びましょう。
公務員の仕事内容を詳しく知って進路を検討しよう
公務員の仕事は幅広く、やりたい仕事によって、必要な知識が異なります。自分がやってみたい仕事を詳しく調べ、どのような試験を受ける必要があるのか、また、そのためにはどんな勉強をすれば良いのか、逆算して考えることが必要です。将来のやりたい仕事を見据え、進路を検討しましょう。
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