数Ⅰの「図形と計量」では、三角比や正弦定理、余弦定理について学びます。これらを基本に数Ⅱで学ぶのが三角関数です。この記事では、三角比をおさらいしたうえで、三角関数や公式の覚え方をご紹介します。
「公式の暗記が苦手……」という方は、ぜひこちらの記事を参考にしてみてください。
「記憶力を高める方法はあるのか?オススメの暗記法」
三角関数や公式の覚え方を学ぶ前に、前提となる三角比についておさらいしましょう。
三角比とは、直角三角形における辺の比のことです。直角に対する辺を「斜辺」、角度θに向かい合う辺を「対辺」、角度θと隣り合う下の辺を「底辺」とするとき、下記のように定義されます。
正弦(sin):対辺と斜辺の比
余弦(cos):底辺と斜辺の比
正接(tan):対辺と底辺の比
直角三角形の底辺をa、対辺をb、斜辺をcとする場合、三角比を次のように表すことができます。
(1)sinθ=bc
(2)cosθ=ac
(3)tanθ=ba
三角比の公式では、「s」「c」「t」の筆記体の書き順と三角比の分母と分子を対応させる覚え方がおすすめです。例えばsinθは、直角を右側にみて筆記体の「s」の書き順をたどり、斜辺cが分母、対辺bが分子になります。
また、三角比の相互関係から次の公式も導き出されます。
tanθ=sinθcosθ
sin²θ+cos²θ=1
tan²θ+1=1cos²θ
正弦定理と余弦定理は、三角形の角や辺を求める公式です。
・正弦定理
三角形ABCの辺の長さをBC=a、CA=b、AB=c、∠A、∠B、∠Cの大きさをA、B、Cとし、外接円の半径をRとしたとき、下記の正弦定理が成り立ちます。
asinA
=bsinB
=csinC=2R
正弦の比が3辺の長さの比に等しいことから、次の等式も成立します。
sinA:sinB:sinC=a:b:c
正弦定理は、1つの辺と2つの角の正弦がわかっている場合などに使用する定理です。例えば辺a、角A、角Bの正弦がわかっているときは、次の式から辺bを求められます。
asinA
=bsinB
・余弦定理
三角形ABCの辺の長さをBC=a、CA=b、AB=c、∠A、∠B、∠Cの大きさをA、B、Cとした場合、下記の余弦定理が成り立ちます。
a²=b²+c²-2bc cosA
b²=a²+c²-2ac
cosB
c²=a²+b²-2ab cosC
1つの公式だけ覚えれば、あとは文字を入れ替えればよいので、すべてを覚える必要はありません。
余弦定理は、2つの辺と1つの角の余弦、もしくは3辺すべてがわかっている場合に使える定理です。例えば辺b、cと角Aの余弦がわかっているとき、下記の式から辺aを求められます。
a²=b²+c²-2bc
cosA
3辺a、b、cが与えられている場合は、余弦定理を変形した次の式により、角度Aを求められます。
cosA =b²+c²-a²2bc
直角三角形を用いる三角比は、扱える角度が0°≦θ≦90°のため、適用できる範囲が限られます。そこでマイナスの角度や180°を超える角度にも拡張する考え方として生み出されたのが三角関数です。
三角関数は単位円を用いて理解する方法が一般的です。原点を中心とした半径1の単位円を用いることにより、180°を超える角度と線分の関係も扱えるようになります。
実際に、単位円を描き、円の中心を原点Oと定めたxy平面を使って三角関数を考えてみましょう。正の方向のx軸から原点を中心にθ度回転させた半直線を描くと、単位円との交点Pができます。
その交点Pのx座標をcosθ、y座標をsinθとした場合、OPを方程式にするとy=axとなり、傾きaはtanθとなります。傾きaがtanθとなる理由は次の通りです。
三角比の相互関係から、
tanθ=sinθcosθ
交点Pの座標(x,y)を当てはめると、このように計算できます。
tanθ=yx ……①
一方、y=axを変形すると、傾きaは次の通り表せます。
a=yx ……②
①、②から、tanθとy=axの傾きaは同一と考えられるのです。
このように単位円を描き、任意の実数θを用いて定義されるsinθ、cosθ、tanθの式を三角関数と呼びます。
加法定理は三角関数の基本となる重要な定理です。大学入学共通テストでも頻出なため、語呂合わせを活用して確実に覚えましょう。
加法定理は、2つの角度αとβの和や差の三角関数を求める公式です。加法定理を用いれば、sin30°やtan45°などの有名角の三角比を使って、sin75°やtan15°といった有名角の和や差になる角度の値を求められます。
加法定理は、6つの公式からなります。
(1)sin(α+β)=sinαcosβ+cosαsinβ
(2)sin(α−β)=sinαcosβ−cosαsinβ
(3)cos(α+β)=cosαcosβ−sinαsinβ
(4)cos(α−β)=cosαcosβ+sinαsinβ
(5)tan(α+β)=tanα+tanβ1-tanαtanβ
(6)tan(α−β)=tanα-tanβ1+tanαtanβ
加法定理は、三角関数を理解する上で大変重要な公式で、この後説明する他の公式の証明にも使用されます。国公立大学や私立理系大学を志望する方は、基本から応用まで幅広く加法定理を使いこなせるように学習を重ねましょう。
加法定理の覚え方でもっとも有名な語呂合わせが「咲いたコスモス」です。
sin の加法定理(1)(2)の覚え方は、
次に、cosの加法定理である(3)(4)です。左辺と右辺の符号が反対になることに注意してください。「咲かない」とすることで、符号を逆にする意味と捉えます。
「咲いたコスモス」以外に、次のような覚え方もあります。
sinの加法定理(1)(2)の覚え方は、
cosの加法定理(3)(4)の覚え方は、
tanの加法定理である(5)(6)は、「1干(ほす)タンタン タン土(ど)タン」と覚えます。
右辺の分母の符号は左辺と反対になることに注意してください。
次に、2倍角の公式とその覚え方について説明します。
なお、2倍角は2022年度の大学入学共通テストで出題されています。この機会に身に付けておきましょう。
2倍角は、ある角θの2倍にあたる角2θの三角関数を求める公式です。有名角の2倍になっている角の値を簡単に算出できます。2倍角は3つの公式からなります。
(1)sin2θ= 2sinθcosθ
(2)cos2θ=1-2sin²θ
=2cos²θ-1
(3)tan2θ=2tanθ 1-
tan²
いずれも加法定理を使えば、導き出せるものばかりです。暗記しておくとより早く問題を解けますが、いざというときのためにも、加法定理から導けるようにしておきましょう。
(1)は、下記のように導き出します。
sinの加法定理より、
sin(α+β)=sinαcosβ+cosαsinβ
αとβをθに置き換えると、
sin(θ+θ)=sinθcosθ+cosθsinθ
sin2θ= 2sinθcosθ
(2)は、cosの加法定理より、
cos(α+β)=cosαcosβ−sinαsinβ
αとβをθに置き換えると、
cos(θ+θ)=cosθcosθ−sinθsinθ
cos2θ=cos²θ-sin²θ
三角比の相互関係によりsin²θ+cos²θ=1であることから、次のように表せます。
cos2θ=1-2sin²θ
=2cos²θ-1
(3)は、tanの加法定理より、
tan(α+β) = tanα+tanβ1-tanαtanβ
αとβをθに置き換えると、
tan(θ+θ) = tanθ+tanθ1-tanθtanθ
tan2θ=2tanθ1-tan²θ
sinの2倍角の公式(1)の覚え方は、
cosの2倍角の公式(2)の覚え方は、
tanの2倍角の公式(3)の覚え方は、
語呂合わせ自体が覚えられないときは、加法定理から導く方法と組み合わせましょう。
3倍角の出題頻度はそれほど多くありませんが、加法定理や2倍角と合わせて覚えておきたい公式のひとつです。
3倍角は、あるθの3倍の角3θを三角関数で表す公式です。有名角の3倍になっている角の値を次の式で求められます。
(1)sin3θ=3sinθ−4sinθ³
(2)cos3θ=4cos³θ−3cosθ
3倍角は、加法定理と2倍角の公式から導き出せます。
(1)は、sinの加法定理より、
sin(α+β)=sinαcosβ+cosαsinβ
αを2θ、βをθに置き換えると、
sin(2θ+θ)=sin2θcosθ+cos2θsinθ
2倍角の公式sin2θ=2sinθcosθ、cos2θ=1-2 sin²θより、
sin3θ= 2sinθcosθcosθ+(1-2 sin²θ)sinθ
=
2sinθcos²θ+(1-2sin²θ)sinθ
三角比の相互関係でcos²θ=1-sin²θより、
sin3θ= 2sinθ(1-sin²θ)+(1-2sin²θ)sinθ
右辺を整理して、
sin3θ= 2sinθ-2sin³θ+ sinθ-2sin³θ
= 3sinθ-4sin³θ
(2)は、cosの加法定理より、
cos(α+β)=cosαcosβ−sinαsinβ
αを2θ、βをθに置き換えると、
cos(2θ+θ)= cos2θcosθ−sin2θsinθ
2倍角の公式cos2θ=2cos²θ-1、sin2θ=2sinθcosθより、
cos3θ=(2cos²θ-1)cosθ−2sinθcosθsinθ
=(2cos²θ-1)cosθ−2sin²θcosθ
三角比の相互関係でsin²θ=1-cos²θより、
cos3θ=(2cos²θ-1)cosθ−2(1-cos²θ)cosθ
右辺を整理して、
cos3θ=2cos³θ-cosθ-2cosθ+2cos³θ
=4cos³θ−3cosθ
3倍角は計算が少々複雑で、導き出すために時間もかかるため、難関大学を目指すなら3倍角も暗記しておくことをおすすめします。
sinの3倍角の公式(1)の覚え方は、
cosの3倍角の公式(2)の覚え方は、
まずは「マジシャン」や「みこし」などのキーワードを頭に入れ、リズムに乗せて他の言葉も思い出すようにすると暗記しやすくなります。
半角の公式は、2倍角や3倍角より覚えづらいと感じる方が多いかもしれません。2倍角を使えば簡単に導けるので、語呂合わせと組み合わせて乗り越えましょう。
半角は、ある角θの半分にあたる角度2を三角関数で表す公式です。2倍すると有名角になる角を扱う際や、次数を下げたいときに用いられます。半角は3つの公式からなります。
(1)sin²θ2=
1-cosθ2
(2)cos²θ2=
1+cosθ2
(3)tan²θ2=
1-cosθ1+cosθ
半角の3つの公式はどれも2倍角の公式から簡単に導けます。
まずは(1)sinの半角です。2倍角の公式cos2θ=1-2sin²θを変形すると、
2sin²θ=1-cos2θ
sin²θ=1-cos22
θをθ2に置き換えると、sinの半角の公式となります。
sin²θ2=
1-cosθ2
(2)cosの半角では、2倍角の公式cos2θ=2cos²θ-1を変形して、
2cos²θ=1+cos2θ
さらに両辺を整理し、
cos²θ=1+cos2θ2
θをθ2に置き換えると、cosの半角を導けます。
cos²θ2=
1+cosθ2
(3)のtanの半角は、
tan²θ=sin²θcos²θ、
sin²θ=1-cosθ2、
cos²θ=1+cosθ2より、次のように計算できます。
tan²θ=1-
1-cos221+cos22
=1-cos2θ1+cos2θ
θ=2とすると、tanの半角を示すことができます。
tan²θ2
=1-cosθ1+cosθ
半角の公式をすべて丸暗記する必要はありません。(1)のsinの公式のみを暗記し、残りの公式は上記のように他の公式から導き出す方法で対応できます。経験を積むうちに公式を導く計算が早くなるので、地道に繰り返し練習しましょう。
sinの半角の公式(1)の覚え方は、
公式の左辺が2乗になることや右辺の符号にも注意してください。
最後に、和積の公式の覚え方と語呂合わせです。公式が複雑にみえますが、計算で導く方法はそれほど難しくないので、暗記方法と一緒に理解しておきましょう。
和積の公式は、2つの三角関数の和を積に変換する公式です。三角方程式・不等式や三角関数の積分などで使われます。
(1)sinA+sinB=2sinA+B2 cosA-B2
(2)sinA-sinB=2cosA+B2 sinA-B2
(3)cosA+cosB=2cosA+B2 cosA-B2
(4)cosA-cosB=-2sinA+B2 sinA-B2
(1)~(4)は加法定理を活用して導けます。
加法定理より、
sin(α+β)=sinαcosβ+cosαsinβ……①
sin(α−β)=sinαcosβ−cosαsinβ……②
cos(α+β)=cosαcosβ−sinαsinβ……③
cos(α−β)=cosαcosβ+sinαsinβ……④
①+②より、
sin(α+β)+sin(α−β)=2sinαcosβ……i
①-②より
sin(α+β)-sin(α−β)=2cosαsinβ……ⅱ
③+④より
cos(α+β)+cos(α−β)=2cosαcosβ……ⅲ
③-④より、
cos(α+β)-cos(α−β)=
−2sinαsinβ……ⅳ
α+β=A、α−β=B、α=A+B2、 β=A-B2をi、ⅱ、ⅲ、ⅳのそれぞれの式で置き換えて、両辺を整理すると、和積の公式が成り立ちます。
ちなみに、和積と一緒に学習するのが、積和です。積和の公式は次の4つからなり、2つの三角関数の積を和に変換するために使用します。
(5)sinαcosβ=12{sin(α+β)+sin(α-β)}
(6)cosαsinβ=12{sin(α+β)-sin(α-β)}
(7)cosαcosβ=12{cos(α+β)+cos(α-β)}
(8)sinαsinβ=-12{cos(α+β)-cos(α-β)}
加法定理の和と差の式を和積で使用しましたが、積和でも再び用います。
sin(α+β)+sin(α−β)=2sinαcosβ……i
sin(α+β)-sin(α−β)=2cosαsinβ……ⅱ
cos(α+β)+cos(α−β)=2cosαcosβ……ⅲ
cos(α+β)-cos(α−β)=-2sinαsinβ……ⅳ
ⅰ、ⅱ、ⅲ、ⅳの両辺を入れ替えて2で割ると、(5)~(8)の積和の公式を導けます。和積と積和は、変形すると互いに同じ形になる関係です。なお、積和の公式は、比較的簡単に加法定理から導き出せるため、暗記は和積の公式のみで十分対応できます。
和積の公式を覚えるための語呂合わせは次の通りです。
和積の公式(1)の覚え方は、
和積の公式(2)の覚え方は、
和積の公式(3)の覚え方は、
和積の公式(4)の覚え方は、
角度や係数は語呂に含まれない点に注意してください。前提として、公式の左側から「A」、「B」、「係数の2」、A+B2、 A-B2と続くことを覚えておけば、語呂合わせを当てはめやすくなります。
公式がたくさんあって覚えきれないときは、三角比や正弦定理・余弦定理、加法定理から確実に覚えていきましょう。三角関数の中でも加法定理は頻出のため、必ず覚えなければなりません。他の公式は、入試の難易度によって重要性が異なります。
ただし、基本から応用までさまざまな問題を解くには、公式を丸暗記しただけでは足りません。どのような問題でどう使うかまで理解していなければ、実際の試験問題では活用できないからです。公式の意味や使い方を含めて覚え、繰り返し演習を行いましょう。
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