多くの大学受験生が受験する大学入学共通テスト(共通テスト)。共通テストは、国公立大学や私立大学の受験生を対象に、毎年1月中旬の2日間に全国一斉に同じ試験問題で実施される試験のことです。この共通テストは2021年から始まりましたが、それ以前の2020年までは大学入試センター試験(センター試験)という名称の試験が行われていました。センター試験から共通テストに変わり、出題科目や配点、試験問題の内容に大きな変化が見られています。この記事ではセンター試験と共通テストの違い、今後の共通テストの対策方法のポイントについてご紹介します。
そもそもなぜセンター試験から共通テストに変わったのでしょうか。まずは経緯を見ていきましょう。
センター試験(大学入試センター試験)が始まったのは1990年のこと。ちょうど第2次ベビーブームで生まれた人たちが受験期となり、受験戦争が激化しはじめていた頃です。
実はセンター試験の前は「共通第1次学力試験(共通一次)」が1979年から89年まで実施されていました。この共通一次は国公立大学と産業医科大学のみを対象に行われていましたが、センター試験に変わってからは、国公立大学はもちろん、私立大学も参加できるようになりました。
1990年から始まったセンター試験は2020年までの30年間続き、2021年からは現行の共通テストへと変わりました。30年間も続いたセンター試験が廃止されたのはなぜなのでしょうか。
センター試験が廃止され、現行の共通テストが導入された大きな要因のひとつは「時代の変化」です。
センター試験が始まった1990年から社会は大きく変化しました。未来が予測しにくい現代の社会に対応していくためには、知識・技能だけではなく、それを活用するための思考力や判断力、表現力を持った人材が必要です。そこで大学入試でも、思考力や判断力、表現力を重視することを目指し、大学入試改革が行われることになったのです。
共通テストは大学入試改革の一環としてさまざまな検討やプレテストを経て実現化が決定。2021年から共通テストに一新されました。
経緯が分かったところで、ここからは共通テストとセンター試験の違いについて見ていきましょう。まずは受験生なら誰もが気になる、試験の難易度についてです。
結論から言うと、センター試験と比較して、共通テストで出題される試験問題そのものの難易度は上がってはいません。共通テストでは、高校の学習指導要領に沿った試験問題が出題されるため、そこから逸脱した範囲の問題が出題されることはないからです。
難易度が大幅に上がったわけではありませんが、教科ごとに配点や試験時間、出題形式などの変更点がいくつかあります。具体的に見てみましょう。
センター試験からの主な変更点
●英語
問題構成と配点が変わり、より実践的な英語力が求められるようになりました。
・筆記200点、リスニング50点→リーディング100点、リスニング100点に※配点比は大学によって異なる
・発音・アクセント問題や語句整序問題がなくなった
・リスニングの第3問以降が2回読みから1回読みに
●理科
化学、生物、物理、地学であった選択問題がなくなり、全大問が必須回答となりました。
●数学
「数学Ⅰ」「数学ⅠA」の試験時間が60分から70分へと延長され、問題数も増えました。
センター試験では、正誤問題や単に計算問題を解くなど、知識をそのままストレートに問う問題が中心でした。
一方、共通テストでは、数学など国語以外の教科でも、問題文の読解力を必要とする問題が数多く出題されています。
例えば数学の試験では、登場人物の会話文から何を問われているかを考える問題や、実際の場面に即して考える問題など、読解力や思考力が問われる問題が多く出題されています。
単に計算問題を解くだけでなく、まずは問題文で何を問われているのかを読み解く力、さらには自分の知識を活用して答えを導き出す力が必要になっているのです。
共通テストの問題の難易度はセンター試験と変わりませんが、実際の受験生からは「難しく感じる」という声も聞かれます。それは問題の「問われ方」が大きく変わったからと言えるでしょう。
センター試験も共通テストも、今のところマークシート方式という面では変わらないものの、試験問題の傾向に大きな変化が見られています。前述の数学の例でも分かるように、ストレートに知識を問われる問題から、知識をいかに活用できるかという力が問われる問題に変更となりました。つまり、問われ方が変わったのです。
この傾向は全ての教科に言えます。例えば現代文では、1つの大問の中で複数の文章が出題されています。このような問題では、複数の文章から必要な情報を見つけ、解答を導き出す判断力や思考力が求められます。
また、数学でもあったように、生徒と教師の会話を読んで考えさせる問題も出題されており、センター試験では見られなかった新しい傾向が見られています。
このような思考力や判断力、表現力を重視する問題に変わったことから、共通テストでは試験時間がセンター試験より長くなってきています。
センター試験では60分だった「数学Ⅰ」「数学ⅠA」は、共通テストになり70分に変更されました。
さらに2025年度(令和7年度)の共通テストでは、国語の試験時間が80分から90分に、また数学②(数学Ⅱ、数学B、数学C)が60分から70分に、それぞれ10分長くなります。
参考:令和7年度大学入学共通テストにおける新教育課程対応について(1試験日程、試験時間) |文部科学省
参考:共通テストはどうなるの?
2022年度から始まった新学習指導要領では必修科目として「情報I」が設けられ、全ての生徒がプログラミングやネットワーク、データベースの基礎などについて学習することになりました。
そして2025年度実施の共通テストで初めて、この「情報I」が出題科目に加わります。ほとんどの国立大学ではこれまでの5教科7科目にこの「情報I」を加えた6教科7科目が必須となります。
この「情報I」は、情報化やグローバル化が進んでいる新しい社会に対応する力を育むために新設されました。人工知能(AI)やIoTがどんどん進化する中で、身の回りの変化に積極的に向き合い、問題の発見、解決に向けて、さまざまな情報を見極め、情報技術を効果的に活用する力が求められているのです。
参考:新課程の「情報」
センター試験と共通テストの違いを見てきました。各教科の出題範囲は大きくは変わりませんが、ここまでご紹介してきたように、問題の傾向が大きく変化しており、それに対応する試験対策が必要です。
共通テストの出題範囲は、教科書に載っている内容です。まずは基礎固めとして、教科書の内容をインプットし、教科書に載っている問題を解けるようにしましょう。
インプットするときのポイントは、単純な丸暗記をしないこと。前述のとおり、共通テストでは知識を丸暗記していれば解ける問題は減り、その知識をどのように活用するかを問う問題が多く出題されています。
そのため、普段の勉強でも自分なりに理解しながら学習することが大切です。「なぜそうなるのか?」「こうだから、こうなる」など自分なりに整理し、理解を深めながら学習するのがポイントです。
また共通テストでは、問題文の中で図やグラフ、写真、絵などの資料の読解や考察問題が多く出題されています。
共通テストに対応するためには、普段から読解力や思考力を高めておくことが不可欠。共通テスト向けの問題集や過去問を活用し、知識を使いこなす思考力や判断力を高めていきましょう。
2024年度実施の共通テストと、新課程入試となる2025年度実施の共通テストでは、受験科目や試験時間の増加など大きな変更があります。
そのため、2025年度実施の共通テストを受ける生徒は、2024年以前の共通テスト対策とは別に、追加で対策が必要です。必ず大学入試センターや志望大学の試験情報を確認して、対策しましょう。
正しい情報を手に入れて自分に必要な科目の対策を
センター試験と現在の共通テスト、また新しく始まる2025年度新課程入試の共通テストについても見てきました。ストレートに知識を問われたセンター試験から大きく変化し、共通テストでは思考力や判断力、表現力が求められるようになりました。そのため、共通テストの試験に対応するには、知識の丸暗記ではなく「なぜそうなるのか」「これはこことこう関連しているのだな」など、普段から自分なりに理解しながら学習していくことが大切。また共通テスト向けの問題集や過去問を解きながら問題に慣れ、知識を使いこなす力を磨きましょう。
大学入試の状況はめまぐるしく変わっています。受験を見据えて正しい情報を収集し、対策をしていきましょう。
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